2011年3月29日火曜日

〈未完成〉という完成と〈完成〉という未完成



考えに考え抜いてもそれは尽き果てることなくさながらこの肉体に絶え間なくのしかかる重力のように重苦しく、そして陰気に、頭に覆い被さる。

しかし一見不健康な仄暗さに包まれたこの思慮の呪縛は、その連れ立った黒色の靄と撒き散らす無限の懐疑や問答の得体の知れぬ観念破壊活動が積み重なり続ける底知れぬ闇とは相反し、その実体は、熱帯地の密林の奥の奥でそこがただ一つの王国のようにこの上なく美しく瑞々しく色鮮やかに輝き生い茂る草花のように 生命の喜びに充ち、同時に、その草花が己の最大限の躍動が許された肢体を湿った風に吹かれ惜しげもなく揺らし迸る芳香を飛散させる、自在、そう、それはまぎれもなく自在の姿を、我が身に与えてくれるのではないだろうか。

苦悩は、未完成であるところの未完成形な経過運動にして、完成に向かうまでに必要不可欠な完成形の反芻運動に他ならない。

もし苦悩のかげも見せぬ人間を前にしたならば、僕は彼に〈完成〉という名の未完成を見いだすだろう。

そしてもし苦悩に憑かれた人間を前にしたならば、僕は彼に〈未完成〉という名の完成を見いだすだろう。

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